東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)200号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由について判断する。
1 原告は、本願商標は、一連一体に称呼されるものであり、これを分離観察して「パイオニア」と称呼すべき格別の理由は見いだせない旨主張する。
本願商標の構成を表示することについて当事者間に争いのない別紙(一)によれば、本願商標は、「PIONEER SUPER」のローマ字と「パイオニアスーパー」の片仮名文字をそれぞれ横書きにして二段に併記して成るものであり、各文字の大きさ、間隔も同じであつて、文字数も長音も含めて九字であるから、本願商標からは「パイオニアスーパー」という一連の称呼を生ずるものと認められる。
しかしながら、本願商標の後半の「SUPER」「スーパー」は英語に由来する語であつて、「上等の」、「優れた」を意味し、商品が上等のものであることを示すために商標に使用されることが少なくないことは当裁判所に顕著な事実であるから、それ自体商品識別の機能が低い文字であるといわざるを得ない。これに対し、本願商標の前半の「PIONEER」、「パイオニア」は同じく英語に由来する語であつて、「開拓者」を意味することは当事者間に争いがなく、それ自体独立して取引者、需要者の注意を惹くもので商品識別機能をもつ語というべきである。また、本願商標は、前記のとおり、各文字の大きさ間隔が同一であつても、社会常識から明らかなわが国における英語教育の現状からすれば、前記指定商品の取引者、需要者に「パイオニア」と「スーパー」の結合した商標であり、上等な「パイオニア」の製品、あるいは優れた「パイオニア」の製品という商品の性質を表すために「SUPER」「スーパー」を「PIONEER」「パイオニア」に結合したものと容易に理解されるものと認められる。
そうであれば、本願商標がその指定商品に使用された場合、取引者、需要者は本願商標を「パイオニアスーパー」と称呼するだけでなく、「パイオニア」とも称呼するというべきである。
一方、引用商標Aの構成を表示することについて当事者間に争いのない別紙(二)によれば、引用商標Aは「パイオニヤ」の片仮名文字を横書きして成るものであるから、「パイオニヤ」の称呼を生ずることが明らかであり、引用商標Bの構成を表示することについて当事者間に争いのない別紙(三)によれば、引用商標Bは四角形の枠中に帆船と波を図形で表し、右帆船の図形中に大きな部分を占めて「Pioneer」のローマ字を横書きして成るものであつて、取引者、需要者は右文字部分に着目して「パイオニア」と称呼することが少なくないというべきである(引用商標A、Bの称呼が右認定のとおりであることは、原告の争わないところである。)。
右の事実によれば、本願商標と引用商標Bとは「パイオニア」という称呼を共通にする商標であり、本願商標の「パイオニア」の称呼と引用商標Aの「パイオニヤ」の称呼とは、語尾の「ア」と「ヤ」に差異があるにすぎず、しかも「ア」と「ヤ」は母音aを共通にし発音が近似しているから、両者は商取引上称呼がまぎらわしく、商品の誤認混同を生ずるおそれのある商標というべきである。
したがつて、本願商標と引用の両商標とは称呼において類似する商標であるとした審決の認定、判断に誤りはない。
2 原告は、仮に本願商標と引用の両商標の称呼が類似しているとしても、両者は外観及び観念において大きく相違するから、類似する商標とはいえない旨主張する。
しかしながら、商標は、商取引における自他商品の識別標識、出所表示標識としての機能を営むものであり、取引一般において、テレビ・ラジオその他広汎な広告媒体が存在し、かつ電話等による隔地者間の音声を利用した取引手段も活用されていることは社会通念上明らかなところであるから、外観及び観念において相違するところがあつても(前記認定事実によれば、本願商標と引用の両商標は外観を異にするとはいえ、「開拓者」という意味を伴う点では共通しており、観念において大きな相違はない。)、称呼において類似する以上、称呼が類似するにもかかわらず商品の出所の混同が生じない特別の事情が存しない限り、商取引に混乱をきたし、商標が商取引における前記機能を果たし得ない結果を招来することが明らかである。そして、本件においては、右のような特別の事情を認めるに足りる証拠はない。
したがつて、外観及び観念について論ずることなく、本願商標と引用の両商標とは称呼において類似する商標であることを理由に本願商標は商標法第四条第一項第一一号の規定に該当するとした審決の認定、判断に誤りはない。
3 原告は、原告が本願商標とほとんど同じ商標について登録第五一八五一四号の商標権を有し、これが有効に存続している間に引用商標A、Bが商標出願され、右登録商標に類似しないものとして登録されたにもかかわらず、原告がその後右登録商標の更新出願を逸したために新たに同じ商標について登録出願したところ、引用商標A、Bの商標と類似するとして登録を拒絶することは原告の権利をふみにじるものであるから、審決は違法として取り消されるべきである旨主張する。
成立に争いのない甲第五号証によれば、原告は、「PIONEER SUPER」のローマ字と「パイオニアスーパー」の片仮名文字をそれぞれ横書きにして二段に併記して成る商標について指定商品を旧第三六類「被服、手巾、釦鈕及び装身用ピンの類」とする商標権を有していたことが認められる。
一方、成立に争いのない甲第三号証及び第四号証によれば、引用商標Aは指定商品を旧第三七類「寝具及び他類に属しない室内装置品」とし、引用商標Bは指定商品を第一七類「被服、布製身回品」とすることが認められる。
右認定事実によれば、原告主張の登録商標と引用商標Aとは指定商品を異にするから、引用商標Aについては、原告の前記主張はその前提において誤つているというべきである。
また、引用商標Bについては、原告主張の事実が存するからといつて、本願商標と引用商標Bとを非類似の商標としなければならないとは考えられないし、原告は引用商標Bが原告主張の登録商標に類似する商標であるというのであれば無効審判請求等の法的措置を講ずることができたのであるから、本件審決によつて原告の権利が不当に侵害されたということはできない。
4 以上のとおりであるから、本願商標と引用の両商標とは称呼において類似する商標であり、また、本願商標の前記指定商品は、引用商標Aの指定商品中の「寝具」及び引用商標Bの指定商品中の「被服、布製身回品」に包含されることが明らかである。
したがつて、本願商標は商標法第四条第一項第一一号の規定に該当し、商標登録を受けることができないものであつて、審決の判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当として棄却する。
〔編註〕本件に関する商標は左のとおりである。
別紙(一)
<省略>
別紙(二)
<省略>
別紙(三)
<省略>